今日のレッスンはドンジョバンニのオペラから「ぶってよマゼット」。なんだかすごい邦題ですけれど、オペラのアリアは通しのスコアには基本的に番号で記載されているものですので(アリアNo.10など)題名はついていないのです。アリアだけを抜き出して演奏する場合、便宜上曲名が必要なので、ほとんどのアリアの曲名は歌い出しの歌詞がそのまま付けられる事が多いです。
で、問題の「ぶってよマゼット」というのは村娘のツェルリーナが他の男(ドン・ジョバンニ)に心を動かされた事を婚約者であるマゼットに謝るアリアです。「私の事をぶって!」とかわいくねだるように言って、マゼットの心から怒りを取り除こうという魂胆。何しろマゼットが自分にぞっこんなのをツェルリーナはよく知っているので、本当に自分を「コノヤロー!」っとぶってくる事などないとわかっているのです。というか、そういう風に強くなれないのがマゼットのいいところなのですから。
男の人を手玉に取るようにコロコロと愛らしく振る舞うツェルリーナの性格そのままに、このアリアも愛らしく歌いながら、音形もコロコロと転がったり、伸びやかに声を広げたり・・・。技巧もさることながら、その技巧に沿うようにしっかりと感情も乗せていかなくてはいけません。発声を崩さずに、技巧に振り回されずに、しっかりキャラクターの心情をしっかりと歌い上げる・・・。難しいですね。特にモーツァルトのアリアはロマン派のオペラなどとは違い、題材が劇的というわけではないので、感情だけで歌い上げるというような力技では通用しないことが多いです。
昔、モーツァルトのアリアが完璧に歌えればどんなアリアも歌える!と教授に言われた事がありましたが、その意味が、年々身にしみて分かるようになって来た、今日この頃です。